桐谷さんと食卓を囲みたい
マムシを食う女子高生は好きですか?
金玉を食材として考える女子高生は好きですか?
そう、みんなそんな女の子が大好きですね。わかってます。
ここ数年、激増している食事漫画界の中で「まだ出てなかったの?」と意外にも思える雑食漫画というジャンル。
カエル、ヘビ、サソリ、豚の睾丸。なかなかご家庭の食卓に並ばないこういった食材に対する好奇心が人一倍強い残念美人な女子高生・桐谷翔子が、それに巻き込まれる教師・榊伸一と共にこれらを調理し、そして食す。
それが今回ご紹介する『桐谷さん ちょっそれ食うんすか!?』なのです。
桐谷さんは生きたカエルでも生きたマムシでも躊躇なくさばいていきます。時にトノサマガエルの頭を机の角に叩きつけ、時にマムシの首をはね、あまねく生き物を食材に変える姿には清々しさすら感じます。
ただし、味付けも清々しすぎて塩をふる以上のことはできないため、そこは榊先生が調味に一手間加えたり、食材として野草を添えるなど植物方面からのサポートを加えていきます。素晴らしき雑食師弟コンビの連携プレイ。
基本的にどの料理にも一定の美味しさを見出しているのも素晴らしいですね。ちなみに何食っても美味いと言うような子じゃありませんのよ?
さて、そんな『桐谷さん ちょっそれ食うんすか??』なんですが、料理漫画として食材のチョイス以外で非常に優れている点があります。
桐谷さんの食事スタイルが素晴らしいのです。
作画がすごいとか、リアクションが面白いとかそういうことではありません。
食べる時は器の中を見て、咀嚼中に喋らず、飲み込んでから感想を述べる。
料理漫画ではリアクション優先になって軽視されがちな当たり前の食事の描写がなされてるんですよ(例外のシーンもあります)。黙々と咀嚼して飲み込むまでだいたい2コマは使ってます。これが素晴らしい。エキセントリックな桐谷さんですが、これだけで育ちの良さがうかがえます。素敵。一緒にカエル食べたい。
美味しいものを食べて服がはじけたり、よだれが吹き出たりする漫画もありますが、そういうのは漫画的リアクションとわかってはいるんですよ?わかってはいるんですが、発情したような顔で「おいし~~!!」とか言いながら飛び上がって口を開けて咀嚼したものを見せつけてくるような演出をされると「うるせぇ、黙って食え」とぶん殴りたくなるような気分になることもあるわけでして。
今後も桐谷さんには、よりエキセントリックな食材を、日常の食卓のように味わい続けて欲しいなと、そう思うのです。
桐谷さん ちょっそれ食うんすか!? : 1 (アクションコミックス)
- 作者: ぽんとごたんだ
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2016/09/15
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る
球場飯でレッツプレイスリー!(三食 食おうぜ)
魔球・エリプスハンターを引っさげて21世紀に爆誕した野球漫画『ワイルドリーガー』。
料理を「竣工」と呼称する熱い土木工事系料理漫画『ドカコック』。
これらの代表作を持つ渡辺保裕さんの新作が球場飯漫画『球場三食(さじき)』(『アフタヌーン』連載)なのです。
この作品の魅力は、「食と野球と球場の話題のバランスの良さ」にあります。
主人公は、球場開門前から現地入りして試合前練習を観て「野球観戦日の食事は3食すべて球場内で食べる」という規則を自らに課す青年。
彼の食事のシーンは小さいコマが1~3コマのあっさり仕立て。解説は最小限で、くどいリアクションも無い『孤独のグルメ』スタイル。
食事漫画ではあるけれど、食事はあくまで野球観戦ありきの副産物であるためこれがベストのバランスであると言えるでしょう。
そして食事シーンのあっさり感とは対照的に、野球観戦や球場そのものに関する話題は多め。多めではあるが、野球が特に好きというわけでもない自分が面白く読めてるのでクドさはありません。
また、元々ガッツリ野球漫画を描いてた漫画家さんなので途中にはさまる野球のシーンや球場の描写がしっかりしていて臨場感にあふれ、球場の雰囲気を十二分に堪能できる。話題のチョイスも、第1話で最もスポットがあたった話題が「責任審判」というのが野球漫画ではなく「野球観戦漫画」なのだという雰囲気が強く出ていて実に良いのです。
第1話は「明治神宮球場」、第2話は「西武プリンスドーム」と来て、次回予告では広島市からお届けと書いてあるから「MAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島」と各地の球場を紹介していくのでしょう。読むと現地に行きたくなる漫画なのでこれは次回読んだら広島行っちゃうなぁ。
……ところで、第1話に出てきた野球観戦好き女子のつばみちゃん。
野球観戦に真摯な態度で向き合ってメガネ+フードという実にヒロイン力の高い娘さん……
なのに、何故本気を出した途端にメガネもフードもキャストオフしちゃいますかね!
いや、それでも、ビールおごってもらって「かたじけない」って言う仕草とか、ビールの飲みっぷりとか可愛いんだけど!
2話では姿を見せなかったけど、また出てこないかな。今度はメガネをかけたままで!
パンがなければラードを食べればいいじゃない
テレビでは「子供」「動物」「食べ物」を出してれば数字がとれると聞きます。
漫画界隈では「子供」「動物」はともかく「食べ物」は安定した読者を得られるのか、駄菓子を扱った『だがしかし』、女性の一人飲み漫画『ワカコ酒』、変わり種だとダンジョンでモンスターを調理する『ダンジョン飯』など、最近は特に食べ物漫画が増えてきた気がします。
そんな食べ物漫画に「動物」、それもネット界隈では鉄板の人気を誇る「ネコ」をあわせた漫画の単行本が発売されました。
ネコのキャロラインが、飼い主のトシゾウ(バツイチ、ヒモ、バファ●ンをおかずにロキソ●ンを食う)の健康のために栄養満点な料理を作ろうと奮闘するハートフルストーリー。
帯でも「爽やかな感動と笑いを呼び込む猫グルメ語り」「優しさと暖かさを探し求めた猫・キャロラインがやっと見つけたご主人様、そして料理の喜び…。」と謳われている『ねこもくわない』(全1巻)です。
「健康、すなわちカロリー」ということで、第1話で作ったのが、ヌガーとナッツたっぷりの某チョコバーにホットケーキミックスの衣をつけて揚げた「揚げマーズバー」!
……これ実在するんですね。wikiまであった。
グルメ漫画で大事な食後のリアクションも完璧です。
その後も「揚げバター」「豚バラ肉のエナジードリンク煮」、その他各国の砂糖と脂をたっぷり使った料理が目白押し。吐くものがなくなって常に胃液を吐いてる飼い主の身体を気遣うキャロラインの心意気には誰もが心打たれることでしょう。
ところで、「これはさすがにこの作品用に考えたオリジナルだろう」と思った料理まで検索してみると9割方実在してるってのはどういうことなんですかね……
デリヘル嬢はかく語りき
デリバリーヘルス ロールシャッハに勤務するデリヘル嬢。
ニーチェに傾倒するツインテ黒ギャルのさとり(源氏名)。
口より先に手が出るつり目に困り眉のリューコ(源氏名)。
自傷癖の有る黒髪ぱっつんロリのアリス(源氏名)。
彼女たちが
「魂の救済とは何なのか?」
「電子レンジは人類にとってオーバーテクノロジーではないだろうか?」
「ラーメンとつけ麺だと、つけ麺がちょっと高いのなんで?」
など、世界の深淵について語り合ってるようなそうでもないような漫画『しょじじょうにつき。』。
世の中色々な職業漫画がありますが、個人的に職業漫画として一番好きな漫画が『しょじじょうにつき。』(全1巻)なのです。
「デリヘル嬢」という職業が何かわからない方もおられると思いますが、アレです。男性専門の出張カウンセラーです。全裸のカウンセラー(追加料金でコスチュームが選べる場合もあります)。
お互い全裸だとね、もう見栄も何も無くなりますからね。そうした状態で男性の内に秘めたあれやこれやを精神的にも物理的にも放出させ、そして受け止める。それがデリヘル嬢というお仕事なわけですよ。
よくわからんかった子はお母ちゃんがおらん時にお父ちゃんに聞いてな?
当然さとりたちもデリヘル嬢ですから、仕事上様々な男性が普段は内に秘めている姿と向き合うことになります。
裸エプロンや金髪ツインテのツンデレ美少女を求めるオタク。
並のSMを体験しつくし「殺すつもりで来てくれ」と不敵な笑みを浮かべる中年男性。
離婚問題に直面するセーラー服おじさん。
ゴリラ。
彼女たちは彼らと向き合い、その心を受け止めるのです。仕事で。
そう!仕事なんですよ!
セーラー服を引退しようとしているおじさんをセーラー服の道に引き止めても!
ゴリラに会話を求められて哲学的な会話を重ねても!
プレイの時間が終わって離れてしまえば他人。愛着も無いが嫌悪もしない。ウエットでもドライでもない。意識高いことも言わないし苦難に立ち向かうこともないけど無責任な仕事をしているわけでもない。
このバランスがなんだか職業ものとして読んでてとても心地よかったわけです。
この単行本が作者の森キャベツさんのデビュー作でありながら諸事情につき商業引退作でもあり、なんか名は体を表しちゃった感のある『しょじじょうにつき。』。裏サンデーで序盤の話を読むこともできるので興味を持たれた方はいかがでしょう。
ちなみにゴリラとかセーラー服おじさんが出て来るのは、ほとんどが裏サンデーで公開されてる1~2話と最終話の間の話だったりします。
男には自分の世界がある
男の世界。
空を駆ける一筋の流れ星にも喩えられる、美しくも儚い世界。
女性がその世界を垣間見ることは希だろう。また、男性であってもこの深遠な世界の全てを知ることは難しい。
キャバクラって何するところなの?
個室ビデオ店って中はどうなってるの?
オナホって何?どんな風に使うの?
そんな男の世界を知ることができる漫画が『をのころん』(全1巻)である。
小野緒乃子(15)は男性、並びに男性器に興味津々などこにでもいる女子高生。
彼女は、突然現れた「世の女性が男に抱く好奇心が生んだエネルギー体」である女神ジョディ・オンヌに導かれて、時に透明化し、時におっさんに化けて男の世界の秘密を探っていくのだ。
自分も男として生まれてきてぼちぼち40年近くになりますが、男の世界もなかなか広く深いのでね。全てを知るのはなかなか難しいんですねよ。
キャバクラはなんか性にあわないし、個室ビデオ店は近くに無いし……
そういった世界の様子を知るのにこういうレポート漫画は実にありがたいのです。
とりあえず「銭湯に入る時、股間周辺で行われる男性独特の動作」や「カプセルホテルから出て来る男性は外はピカピカで目は死んでる」というのが経験済みで納得できたので、他に紹介されてる事例もわりとリアルなのでは、と思う次第。
ちなみにこの漫画。『漫画サンデー』において「女性読者を開拓するように」ということで企画された漫画だそうです。
女性の方の感想をお待ちしております。
AV女優・豪島セーラという武道家
『グラップラー刃牙』の空手家・愚地独歩、曰く。
手に何も持たぬことを旨とする道が空手である、と。
戈を止めると書いて武である、と。
断言しよう。ならば、豪島セーラの生き様は紛う事なき「武」である、と!
彼女は武器を持たないどころではない。一糸まとわぬ姿こそが彼女の正装である。
彼女、豪島セーラはAV女優である。
『はぐれアイドル地獄変 外伝 プリンセス・セーラ』(既刊1巻)は「性」で戦い、「性」を追求する女の物語なのだ!
……さて、タイトルに「外伝」とある通り、この作品は同作者の『はぐれアイドル地獄変』のスピンオフ作品です。
本編『はぐれアイドル地獄変』の主人公・南風原海空(はえはるみそら)が「高身長、筋肉質、褐色、金髪、処女」であるのに対し、「小柄、スレンダー、色白、黒髪、AV女優」と真逆の存在であるのが豪島セーラ。
本編の主人子の海空が「空手」を武器にアイドル業界の困難を乗り切るのと同様、セーラも「性」を武器に戦い続けてきました。
母親の再婚相手からの性的虐待に対抗するため「性」を使って力を得たのを皮切りに、暴走族、レズビアンの先輩など、幾多の困難を「性」で乗り切ってきたことが(真偽のほどは定かでないが)本編で語られています。
小島聡子(セーラの本名)にとって障害を乗り越えるための武器だった「性」。
しかし、性を武器にしてきた小島聡子がAV女優・豪島セーラに転身した時、彼女の武器であった「性」は追求すべき「道」となったのです。
樹海に足を踏み入れた自殺志願者、性行も困難な世界一の巨根、体重160kgの元・女性アイドル……性別、国籍、体型の区別無く性に立ち向かい、技を磨き、理解しあう。
そう。この漫画はAV女優が主人公だけれども、間違いなく武道漫画なのです。
拳を肉体に叩き込み破壊するのではなく、巨根を受けとめ、巨体を愛し、全てを受け入れる。『はぐれアイドル地獄変 外伝 プリンセス・セーラ』は世界で一番優しい「武」の漫画なのです。
本編を読まなくても問題なく読めるタイプのスピンオフですので(むしろ逆に、本編に突然スピンオフ側のキャラが出てる)、一風変わった格闘漫画を求める方にオススメです。
全くの余談ですが、冒頭で紹介した「武」って漢字の成り立ち。
「矛を止める」んじゃなくて「矛を持って戦いに行く姿(「止」は矛を持ってる人の足)」が正しいらしいですね。
豪島セーラも常に新たな戦いの場を求めているので、本来の成り立ちの方が彼女らしいと言えます。
おかえり あぶない刑事
映画『さらば あぶない刑事』観てきました。
本当にすごかった。
何がすごかったって『あぶない刑事』以外の何者でもない映像だったのがすごかった。
テレビでやってたあの雰囲気そのままの映像!
2016年が舞台で2016年の風景なのに90年代のあの頃の雰囲気!
港署のあるハマの空気!!
自分は小中学生時分にリアルタイムであぶ刑事を観てた世代というか、タカとユージがかっこいい男の代名詞だったりしたので、今回の復活は正直不安でたまらなかったんですよ。
妙に小奇麗な映像で今風の感動作を目指してすべったりしないだろうかとか、なんか黒のレザーっぽいコスチュームを来てクールを気取った中途半端な悪役が出るんじゃないかとか。
まったくもって杞憂でした。
なんでこんなに完璧にあの雰囲気が出せてるんだろうと思ったら、スタッフがほぼ当時のままなんですね。監督の村川透さんとか撮影の仙元誠三さんとか喜寿ですよ?松田優作の『蘇える金狼』とか手がけた人たちなんですよ?
そんな超がつくほどのベテランがまだまだ健在で当時と変わらぬ仕事を見せてくれるというこの嬉しさ。
キャストもみんな歳は重ねたものの、それは渋みが増しただけで「老いた」って感じが全く無いのもすごい。
タカ(舘ひろし)のバイクアクションも、『RUNNING SHOT』をBGMにしたユージ(柴田恭兵)の全力疾走も、港署の面々のノリも、全てがあの頃のまま。そしてレギュラーメンバーが何らかの形でほぼ全員登場してるのも嬉しい。
ちなみに個人的にすごく好きだったのが山西道広さんが演じた吉井刑事(パパさん)。退職しておでん屋さんになってるけど、『探偵物語』で松本刑事やってた頃みたいなヒゲをたくわえた好々爺になってました。良い。実に良い。
そして、今回の敵である南米の犯罪組織BOBのメンバーを演じた吉川晃司と夕輝壽太も実に良かった。
暴力と死が日常にある地域で生きてきた雰囲気が出ていて、自然に「こいつヤバい」と思わせる夕輝演じるディーノ・カトウの立ち居振る舞い。血の気は多いが粋がったチンピラのような小物感が無く、感情や動作の静と動がハッキリしてる獣のような男。
そのディーノを従えるのが吉川さん演じるキョウイチ・ガルシア。一見すると杖をついた物静かな紳士だがディーノを抑え込めるだけの説得力ある風格があって実に画になる。加えて、足の粉砕骨折が治ったばかりと思えないアクションは圧巻。
2人ともあぶ刑事の最後を飾るにふさわしい魅力的な敵でした。
特撮クラスタとしては仮面ライダースカル(吉川晃司)に加えて、ユージの知り合いの元・不良グループの2人が仮面ライダーメテオ(吉沢亮)にキカイダー(入江甚儀)なのも嬉しい。さすがにメテオやってた頃とは雰囲気違うんで「この顔、どこかで見た覚えがある……」と悶々としてましたが、パンフ読んで納得。
そう言えばパンフに、吉川さんがバイクの練習をしてる様子をたまたま見に来た仮面ライダーのスタッフに「また仮面ライダーやることになったんだよ」って冗談言ったというエピソードがあったんですが、本当にスカルでもう一本やってほしい!それくらいにアクションもバイクスタントもかっこよかった。
というわけで長々と感想書きましたが、あぶ刑事好きとして満足のいく作品だったということを世に訴えたか ったのです。ちょっと気になってるって人も、あぶ刑事初めての人も是非劇場へ。
そしてブルーレイで再び!