電光らんちうキック

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いい湯だな 湯気にかすんだ 赤い染み

引きこもりがお風呂屋でバイト始めたら、閉店度にそこで人を殺してました(掃除が楽なので)…という映画『メランコリック』を観ました。

 

メランコリック

メランコリック

  • 発売日: 2020/04/02
  • メディア: Prime Video
 

 
主人公は東大卒の無職男性。言うなれば「勉強特化すぎて他が全然できないタイプ」。しかも、調子に乗りやすく、危機意識が皆無。
偶然に偶然が重なって殺しの仕事の手伝い(浴場の掃除)というヤバい仕事に手を染めたにも関わらず、高額のバイト代が入ったことに舞い上がっていきなり同級生の女の子を高級レストランに誘っちゃうくらいに現状認識が甘い。後に殺し担当の同僚からヤバことになってる自覚が無さ過ぎると怒られるくらいに甘い。

そして、お風呂屋としては無関係の彼をイレギュラーでヤバい仕事に関わることになったので、元請のヤクザから銭湯のオヤジに「彼を始末するか殺しをやらせるかどっちかにしろ」とお達しが来ることに。

 

ヤクザから汚れ仕事を受けてるけど無茶振りが続いて疲弊している銭湯のオヤジ。
ヤクザに目をかけられてる殺し屋の青年。
そしてヤバいことになってる事にやっと気が付いた引きこもり元・東大生。
彼らはこの現状を打破するためにはヤクザを殺すしかないと決断するが…というお話。

 
このあらすじを読むと、「ダメダメな東大生が地頭の良さを発揮して危機的状況を切り抜けるのかな?」とか「陰惨なバイオレンス映画かな?」と思うでしょうけども、さにあらず。
もっと淡々とした「人生って、しあわせって何だろうね」という映画なのである。

前述した通り、主人公の「東大卒」という属性はこの事態に対して何の解決策ももたらさない。むしろ面接でも雑談でも「東大まで行ったのになんで無職なの?」と聞かれるばかり。「東大卒」という肩書が、それを活かせていない現実と相まってマイナスにしか働いていないのだ。東大卒であることと満たされた人生であることには何の相関関係にもないのに。

 

では彼がどん底にあるのかというとそうではない。
まず、両親が彼に普通に接している。「東大まで行ったのに仕事もしないで!」とか言わないし、風呂屋のバイトを始めたことに対しても非常にフラットに接している。
そして自分を気にかけてくれる女性ができた。

汚れ仕事のバイト先とはいえなんとなく会話ができる同僚もできた(若干調子に乗り始めて見てるこちらはヒヤヒヤするけどそれはそれとして)。
安心して帰ることのできる場所と、徐々に拡がっていく人間関係。「東大卒」であることとは無関係の所にしあわせが芽吹いている。

果たして彼の見つける人生の価値とは?

 


この映画はサスペンス要素はあるがサスペンスではない。ヒューマンドラマと言うほど重くもない。Amazon プライムではジャンルが「コメディ」となっているが喜劇というほど軽くもない。
サスペンス、ヒューマンドラマ、コメディの間に綱を張ってその真ん中でどっちつかずの場所に佇んでいるような絶妙なバランス感覚の作品である。

ポスターに添えられた文章が「人生、こんなはずじゃなかった」というヒューマンドラマ的なものと、「お風呂屋さんの仕事も、結構あぶないんですね。」というコメディ寄りのものと 2種あるのもこの映画をよく表している。

 

この映画のレビューを見ても感想が分かれていて面白い。
サスペンス的な視点で彼らの行く末に思いを馳せている人。
コメディととらえて素直に楽しんだ人。
主人公とヒロインの姿から青春映画ととらえた人など様々である。

 

あなたはこの映画にどんな感想を抱くだろうか。