電光らんちうキック

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孤高 vs 現実

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怪獣。
いくら巨体であってもゾウやクジラを怪獣とは呼びません。
言語学上での厳密な区分はともかく、怪獣とはその存在が「異物」となる生物なのだと思います。

 

『いに怪することなく、獣じつしたひび』は怪獣のことで頭がいっぱいの女子高生・倉田さんの物語。
と同時に"2人"の怪獣の物語でもあります。

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教室で怪獣(東宝大映系)の本を黙々と読み、お弁当も1人屋上で食べる倉田さんはクラスで浮いた存在です。たとえ害を為さずとも皆と異なる嗜好を持ってグループに属さない倉田さんは教室の「異物」です。

 

そしてもう1人の「異物」北川えり。彼女は倉田さんとは真逆の存在。男性の存在が絶えることは無く、常に苛立ち、不満があれば人目をはばかることなく大声で不満を口にする。彼女もまた教室の「異物」です。

 

 

しかし、2人ともクラスで孤立していることなど意にも介しません。
倉田さんは常に怪獣のことに思いを巡らせ、自分が孤立していることなど気にもとめず満ち足りた表情を浮かべます。

体育の授業に参加しなかった(組を作ってあぶれた)罰として体育教官室の掃除をさせられても排水口のぬめりにヘドラを思い、下校時に大雨に降られても暴風雨の中でラドンを思う。

常に心は怪獣と共にあるその姿勢はぶれることがありません。


北川さんは理不尽に対してストレートに怒りをぶつけ孤高を貫きます。デートのドタキャンのメールを受け取れば教室内であろうとも大声で不満を叫び、理不尽な先輩の悪意が人に及びそうになった時には毅然としてそれを食い止める。

身勝手でありながら性根に芯があります。

 

2人の怪獣はそれぞれ"群れない"ことと"攻撃性"でクラスの異物となっており、何かととりざたされるコミュ力とは無縁の存在。数々の怪獣映画に現れる怪獣たちのように異物として排除されそうになったり、利用されそうになることもあります。

 

しかし彼女たちはそんなこともやはり意にも介さないのです。

「己を貫く」という意気込みすら無く、自分の在りたいように振舞う。
周囲の雑音が無いもののように泰然としている倉田さん。降りかかる理不尽に毅然とした態度を見せる北川さん。結果として互いを助けることもあれど、基本的にはただただ自分らしくある。その姿は時に砲弾の嵐の中を悠然と歩み、時に何かを守るために他の怪獣を打ち倒す怪獣たちの姿が重なって見えます。

 

 

彼女たちは怪獣。異物。人間たちと共存はできないのかもしれません。人々の攻撃に成す術も無く破れる日が来るかもしれません。
願わくは、彼女たちが自分らしく在り続けられればと思わずにいられないのです。

 

いに怪することなく、獣じつしたひび(1) (ヤンマガKCスペシャル)

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