たまに行くならこんな古本屋台
ジャンパーを羽織り野球帽をかぶったオヤジが1人、屋台の向こうで背中を丸めて煙草を吹かす。
屋台には古本。本好きの心をくすぐる選りすぐりがみっしりと詰められている。
メニューは無い。古本屋だから。
白波のお湯割りだけ出してくれる。一杯だけ。100円。屋台だから。
そこは本と酒を愛する者たちの憩いのオアシス、『古本屋台』。
「こんな場所があればいいのにな」という作品は多々ある。
一流のバーテンとこだわりの酒が待つ『BARレモン・ハート』。
ダンジョンと呼ばれるほどの広大な地下に古今東西の漫画を所蔵する『金魚屋古書店』。
『古本屋台』も同様にある種の理想郷漫画だ。
ただ、前述の作品たちと決定的に違う点がある。
古本に関する薀蓄が無い。
本のタイトルが出てくることすら稀である。
だが、それでいいのだ。
この屋台自体が稀覯本を並べるような屋台ではない。
酒だって出てくるのはお湯割りだけ。
言葉少なで頑固だがたまに小粋な所を見せるオヤジの屋台で、古本の背を眺めながら名前も知らない馴染みの客と他愛も無い話をする。
この屋台はそういう場所なのだ。
ほろ酔い気分であただ背表紙を眺める日がある。
屋台が現れずやきもきしながら過ごす日がある。
テレビで紹介されてできた人だかりを遠巻きに眺めて「メーワクな話だぜ、クソ」と独り言ちる日もある。
オヤジのさりげない教養に嬉しくなる日もある。
『古本屋台』を読んで、そんな「こんな場所があればいいのにな」を是非味わってほしい。